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素材の常識を超えて — イタリアの現代デザインと素材の実験

火山の溶岩、硬さの違う樹脂、捨てられるはずだった大理石

エトナ山の、縄のようなしわを刻んで冷え固まった溶岩(パホイホイ溶岩)
エトナ山の、縄のようなしわを刻んで冷え固まった溶岩。この素材から、家具とオブジェが生まれた

黒く、ざらりとして、ところどころに気泡の跡が残る石。シチリアの火山から流れ出し、冷えて固まった溶岩です。2014年4月、ミラノの館パラッツォ・クレリチに、この溶岩でつくったスツールやテーブル、時計、花器が並びました。手がけたのは、イタリア出身のデザイナー、アンドレア・トリマルキとシモーネ・ファッレジンによるスタジオ「フォルマファンタズマ」。素材は、デザインの出発点であると同時に、いちばん手強い相手でもあります。イタリアの現代デザイナーたちが、素材の常識をどのように越えてきたのかを見ていきます。

溶岩という、手に負えない素材

シリーズの名は「デ・ナトゥーラ・フォッシリウム(化石の本性について)」。エトナ山とストロンボリ島という、シチリアでいまも活動を続ける火山の周辺で、溶岩がどのように使われてきたのかを調べることから始まりました。土産物として消費される「その土地らしさ」ではなく、溶岩という素材そのものの性質に向き合うこと。それが、このプロジェクトの出発点でした。

溶岩を溶かしてガラスのように成形する試みは、簡単ではありませんでした。デザイナー自身が語るところでは、何千もの試作が、冷える途中で割れてしまったといいます。完成した30点を超える作品は、ロンドンのギャラリーを通じて限られた数のエディションとして紹介されました。石であり、ガラスであり、火山の記憶でもある素材。その曖昧さこそが、作品の魅力になっています。

エトナ山の斜面を覆う、黒く砕けた溶岩流(アア溶岩)
エトナ山の斜面を覆う、黒く砕けた溶岩流。フォルマファンタズマが向き合ったのは、この荒々しい素材だった

柔らかすぎる椅子

樹脂は、どんな形にもなれる素材です。だからこそ、何を形にするかが問われます。1984年、ガエターノ・ペッシェは、ひとつの型にウレタン樹脂を手で流し込み、硬さを少しずつ変えながら、9脚の椅子をつくりました。ニューヨークのプラット・インスティテュートで生まれたことから「プラット・チェア」と呼ばれるシリーズです。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)の記録によれば、最初の一脚はあまりに柔らかく、自らの重さを支えることさえできません。番号が進むにつれて樹脂は硬くなり、やがて人が座れる椅子になる。同じ形でも、素材の性質が変われば、椅子は椅子でなくなる。9脚は、素材と機能の境目を目に見えるかたちで並べた実験でした。

切断機の「失敗」を、模様に

大理石の産地カッラーラに生まれたパオロ・ウリアンは、幼いころからアプアーネ・アルプスの採石場や工房に親しんできたデザイナーです。2014年には、デザイナーのモレーノ・ラッティとともに、使われずに残った大理石のタイルだけで生活の道具をつくる展覧会「40×40」をカッラーラで開きました。

イタリア・カッラーラの採石場で切り出された大理石のブロック
カッラーラの採石場で切り出された大理石のブロック。製品になるのは、その一部にすぎない

カッラーラの石材会社ブファリーニと組んだシリーズ「ドラップ」では、さらに大胆な発想が試されています。厚い石を高圧の水流で切るとき、水流はどうしても揺らぎ、切り口に波のような跡が残ります。本来なら避けるべきその揺らぎを、ウリアンは布のひだのような模様として、意図的に生かしました。機械の癖を、石の新しい表情に変える。硬い大理石が、まるで布のようにやわらかく見えるのです。

石と鋼の対話

異なる素材を組み合わせると、それぞれの性質がいっそう際立ちます。1962年、アキッレとピエル・ジャコモ・カスティリオーニの兄弟は、照明メーカーのフロスのために、床から大きく弧を描くランプ「アルコ」をデザインしました。ステンレスの細い弧を支えるのは、60キログラムを超えるカッラーラの大理石の塊です。

重い石は、弧の先の灯りと釣り合う錘であり、同時に、磨かれた直方体の彫刻でもあります。石の塊には穴があけられ、MoMAの記録によれば、そこにほうきの柄を通して二人で運ぶことができます。重さという石の欠点を、構造と運び方の両方で引き受けた、素材の組み合わせの見本のようなデザインです。

二つの署名

イタリアで素材の実験が豊かなのは、その技を受け止める職人が、いまも各地にいるからでしょう。ミラノ・デザインウィークでは、コローニ工芸財団などが、現代のデザイナーとイタリア各地の職人を組ませて作品をつくる展覧会「ドッピア・フィルマ(二つの署名)」を続けてきました。2018年の回では、ヴェネツィアとヴェネト州の職人たちが、デザイナーと一点ものの作品を生み出しています。

伝統の技は、新しい発想に出会うことで、まだ誰も見たことのない形を生みます。そして新しい発想は、確かな技に支えられて、はじめて作品になります。ムラーノのガラスやカッラーラの大理石の工房が続いてきたのも、その往復があったからにほかなりません。

エトナの溶岩でつくられたスツールに腰をおろすと、そこには冷えて固まるまでの火の時間と、何千回も割れては試された作り手の時間が、重なっています。素材の常識を越えた作品が写真で伝わりきらないのは、この二つの時間が手触りと重さの中にあるからでしょう。RIVONTEがイタリアの作り手を訪ねるとき、まず聞きたいのも、その素材をなぜ選び、どこまで試したのかということです。

Photo credits & licenses
  1. Vicky Brock, “Ropy Pahoehoe Lava on Mount Etna in Italy - 2016” (Wikimedia Commons), CC BY-SA 2.0 — 縮小して掲載
  2. Vicky Brock, “Aa Lava Flow over Tephra at Mount Etna on Sicily in Italy” (Wikimedia Commons), CC BY-SA 2.0 — 縮小して掲載
  3. Vmenkov, “Blocks of marble in Carrara marble quarry 6386” (Wikimedia Commons), CC BY-SA 3.0 — 縮小して掲載

写真は各ライセンスの条件に従い、長辺を縮小して掲載しています(切り抜き・色調整なし)。表示のない写真は、パブリックドメインまたは CC0 です。

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