1902年、トリノで開かれた国際近代装飾美術博覧会に、奇妙な部屋が現れました。人の背丈ほどに拡大したカタツムリの殻の内側のような空間。その中央の小さな丸テーブルを、座面と背もたれがひと筆の曲線でつながった椅子が囲んでいました。ミラノの家具作家カルロ・ブガッティの「コブラ・チェア」です。椅子は、どこまで椅子のままで、彫刻になれるのか。この問いは、いまもデザイナーたちを惹きつけています。
一本の曲線で、椅子をつくる
ブガッティの椅子が驚きを与えたのは、装飾の豊かさだけではありません。脚、座面、背もたれという椅子の部品の区別を、ひとつの連続した形の中に溶かしてしまったことです。この部屋は博覧会で最高の栄誉を受け、椅子はいま、パリのオルセー美術館などに収められています。
家具を部品の組み合わせではなく、ひとつの形として考える。その発想は、彫刻的な家具の出発点のひとつと言えるでしょう。
カルロ・ブガッティの別の椅子(1900年頃、アムステルダム国立美術館)。羊皮紙を張った面と、金属や象牙の象嵌が一体の形をつくる素材の性質そのものが形を生む家具もあります(1969年にガエターノ・ペッシェが発表したポリウレタンの椅子「UP」は、圧縮された包みを開くと空気を含んでふくらみ、形になりました)。現代の彫刻的な家具でも、ひとつの石から削り出したテーブル、型に流し込んで鋳造した金属の脚、手で削り出した木の曲面など、素材の加工方法そのものが形を決めていることが少なくありません。どのようにつくられたのかを知ると、その形がなぜそうなっているのかが見えてきます。
「彫刻的」とは何を指すのか
現代の家具で「彫刻的」と言うとき、必ずしも装飾が彫り込まれているわけではありません。多くの場合、それは見る角度によって変わる輪郭、塊としての量感、そして形のまわりに生まれる余白を指しています。正面だけでなく、側面や背面、斜めから見たときにも形が成立していること。それが、空間の中で彫刻のように感じられる家具の条件です。
表紙の写真の椅子は、細い金属の線だけで組まれています。量感はほとんどないのに、壁には椅子よりはるかに大きな影が伸びる。光と影まで含めて形をつくる、もうひとつの彫刻的な家具のあり方です。
四百年前の、彫刻としての脚
家具と彫刻が出会うのは、近代に始まったことではありません。メトロポリタン美術館の《ファルネーゼ家のテーブル》(1565〜73年頃)は、建築家ヴィニョーラの設計で、ローマのファルネーゼ宮殿のためにつくられました。天板を支える大理石の脚は、彫刻家グリエルモ・デッラ・ポルタが彫ったとされています。
《ファルネーゼ家のテーブル》の脚。翼をもつ生き物の姿と紋章が刻まれている(メトロポリタン美術館)当時の目録によると、枢機卿が不在のあいだ、このテーブルは革で覆われ、錠のついた木箱に収められていたといいます。建築家が全体を構想し、彫刻家が支えを刻み、石工が天板を仕上げる。分野の異なる作り手の技が集まった家具は、最も大切な美術品と同じように扱われていたのです。
空間の中で
彫刻的な家具は、周囲に余白があってこそ生きます。壁際に寄せるより、いくつかの方向から眺められる位置に。斜めからの光があれば、曲面や輪郭が浮かび上がります。石や金属の作品は重量があるため、置く場所の床の強度にも気を配りたいところです。
使える道具であることと、眺める造形であること。その二つがひとつのものの中で張り合っている緊張感が、空間に張りを与えます。素材の実験から生まれる形は素材の常識を超えてで、家具を収集する文化はコレクティブルデザインとは何かで紹介しています。