ギャラリーの床に、白い台座がひとつ。その上に置かれているのは彫刻ではなく、一台のテーブルです。壁の照明は、部屋を明るくするためというより、光の模様を見せるために灯されている。2014年、コレクティブルデザインのフェア「Design Miami」で、あるギャラリーが紹介したスイスのデザイナー、トム・ストララの展示です。食事をするための家具を、なぜ台座に載せるのか。その問いから、コレクティブルデザインという考え方が見えてきます。
使える作品、という矛盾
コレクティブルデザインとは、一般に、デザイナーや作家の名前とともに、限られた数でつくられる家具・照明・オブジェを指す言葉です。座ることも、物を置くこともできる。それでいて、その形や素材、つくられ方によって、美術作品に近いものとして選ばれ、長く手元に置かれます。日本では「コレクティブル家具」「アート家具」、小さな作品は「デザインオブジェ」と呼ばれることもあります。
法律や業界で決められた定義はなく、どこからをコレクティブルと呼ぶかの線引きもありません。ここでは、使える道具でありながら、ひとつの考えを形にした作品として選ばれる家具やオブジェを指す、ゆるやかな呼び名として捉えておきます。
ミラノのアパートメントで始まったこと
家具を「表現」として発表する。その考え方を、20世紀に最も鮮やかに示したのはイタリアのデザイナーたちでした。1980年12月、ミラノのエットレ・ソットサスの家に若い建築家やデザイナーが集まり、のちに「メンフィス」と呼ばれるグループが生まれます。翌1981年9月18日、ミラノのギャラリー「アルク74」で開かれた最初の展覧会には、原色の積層板や大胆な模様をまとった家具が並びました。
使いやすさや合理性を最優先にする流れに対して、色や形の自由を正面から主張した家具。それは、家具が作り手の考えを語る媒体になりうることを、はっきりと示しました。いまのコレクティブルデザインに見られる造形の自由は、こうした試みの延長線上にあります。
四百年前のコレクション
もっとも、家具を収集の対象とする感覚そのものは、ずっと古くからありました。17世紀の初め、フィレンツェのメディチ家の工房は、色とりどりの石を切り嵌めて花や鳥を描いた飾り棚をつくり、枢機卿や王侯がそれを手に入れました。のちに教皇となる枢機卿の紋章を戴いた《バルベリーニ家の飾り棚》は、いまニューヨークのメトロポリタン美術館で、美術品として眺められています。
《バルベリーニ家の飾り棚》(1606〜23年頃)の細部。花も鳥も、色の異なる石を嵌め込んで描かれている(メトロポリタン美術館)素材と技の粋を集めた家具は、当時から美術品と同じように扱われていたのです。違いがあるとすれば、かつては王侯の注文から生まれた家具が、いまはデザイナー自身の問いから生まれていることでしょう。
なぜ、機能を超えた形に惹かれるのか
椅子なら、座れれば十分なはずです。それでも人が、座り心地とは別の理由で一脚の椅子に惹かれるのはなぜでしょうか。ひとつは、形の中にひとつの考えが読み取れるからだと思います。どこまで軽くできるか、ひとつの素材でどこまで形をつくれるか、光をどう扱うか。作品は、作り手が自分に課した問いへの答えでもあります。
もうひとつは、素材と技が限界まで試されているからです。ガラスを細い棒に引き伸ばし、輪切りにして並べるムラーノの技法のように、手間と経験の積み重ねでしか生まれない形があります。そうした作品は、量産のために形を整える必要がないぶん、素材と技の可能性をそのまま見せてくれます。

ムラーノのガラス、ミッレフィオーリの断片。色ガラスの棒を引き伸ばして輪切りにした、手仕事の結晶
そして、作り手の名前が添えられていること。誰が、どのような考えでつくったのかを知ったうえで迎えるものは、使うたびに、その考えとの対話になります。
見本市の中心へ
2005年には、デザインに特化したフェア「Design Miami」がアメリカのマイアミで始まりました。同フェアは自らを、20世紀・21世紀の美術館級の家具や照明、オブジェを扱うコレクティブルデザインの場と位置づけています。2026年には、ミラノの国際家具見本市サローネ・デル・モービレにも、一点物や限定作品、アンティーク、高度な手仕事を集めた部門「サローネ・ラリタス」が初めて設けられました。量産の家具の見本市として始まった場所に、数の限られた作品が迎え入れられたことになります。
まだ知られていない作り手へ
イタリアには、世界的に知られた名作だけでなく、小さな工房や独立したデザイナーが生み出す、まだ日本では紹介される機会の少ない作品が数多くあります。RIVONTEがコレクティブルデザインに惹かれるのは、そこに「独創性」「作り手の技術」「個性」が、最も純粋なかたちで表れるからです。完成した形だけでなく、その形に至った考えと技術とともに、作品を届けたいと考えています。
数を限ることの意味は一点物と限定生産で、機能と造形の関係は彫刻的な家具で掘り下げています。