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Collectible Design公開日

家具は、どこからアートになるのか。

水槽の椅子、美術館のベンチ、税関の蛍光灯

白い展示室に立つコンクリートの柱の列と、その上に灯る電球がひとつ。床に柱が映っている
トム・ストララのインスタレーション(展覧会「Time is More」、ミラノ、2014年)。コンクリートの柱のあいだに、電球がひとつ灯る

水槽の中に、白い椅子が沈んでいます。吉岡徳仁の《VENUS》は、小さな結晶を水の中で育て、時間をかけて形にした椅子です。見る人は腰を折り、ガラスに顔を寄せます。椅子の前でとる姿勢ではありません。形は椅子なのに、体は彫刻を見るときのように動く。家具はどこからアートになるのか。答えは、定義より先に、こうした作品の前に立つ人の体に現れます。

水槽の中の白い結晶の椅子に、顔を寄せて見入る人のシルエット
吉岡徳仁《VENUS》。水槽の中で結晶を育てて生まれた椅子

印象派の絵の前のベンチ

反対の例もあります。パリのオルセー美術館の印象派の展示室には、吉岡のガラスのベンチ《Water Block》が置かれています。透明な塊の表面は水面のように揺らぎ、モネやセザンヌ、ルノワールの絵のそばで光を集めています。ベンチは展示室の備品でしょうか。それとも、絵と並ぶ展示品でしょうか。同じ部屋の中で、作品を見るための道具と作品そのものの区別が、静かにほどけています。

オルセー美術館の暗い壁の展示室に置かれたガラスのベンチと、壁の絵画
吉岡徳仁のガラスのベンチ《Water Block》(2002年)。2011年からオルセー美術館に

柱頭に座る

イタリアには、この揺らぎを笑いに変えた作品があります。1971年、スタジオ65がデザインし、グフラムが製造した《カピテッロ》は、古代の神殿の柱頭を巨大な椅子にしたものです。石に見えるその塊は、触れるとポリウレタンの発泡体で、体を受け止めます。メトロポリタン美術館やポンピドゥー・センターに収蔵されたこの椅子は、彫刻の記憶を、座るための柔らかさに置き換えました。

美術の側から線に近づいた作家は、正反対の答えを出しています。スコット・バートンが1980〜81年に片麻岩の塊からつくった《岩の椅子(一対)》は、ニューヨーク近代美術館の庭で、来館者が座れる作品として紹介されてきました。一方のドナルド・ジャッドは、自宅のために家具をつくりながら、椅子の芸術性は美術に似ていることにはなく、理にかなった形や有用さ、大きさにあると書きました。バートンは彫刻を椅子に近づけ、ジャッドは椅子を彫刻から遠ざけました。

線を引いてきた人たち

作り手が迷っているあいだに、実務の場では線が引かれてきました。ダン・フレイヴィンの蛍光灯の作品が英国に輸入されたとき、税関当局は照明器具だと主張し、2008年の審判所は彫刻と認めます。ところが2010年、欧州委員会は同様の品を壁掛けの照明器具と定めました。作品であるのは装置ではなく、装置が生み出す光の効果である、という理由です。

イタリアの裁判所は、工業デザインの「芸術的価値」を、美術館での展示や専門誌への掲載といった記録から判断してきました。EU司法裁判所は2025年、そうした事情は必要でも決定的でもないと述べ、2026年4月、日本の最高裁は子ども用の椅子TRIPP TRAPPについて、形が機能に由来する構成としてしか捉えられないとして著作物性を否定しました。補足意見には、美術として鑑賞に値するかを裁判所が判断するのは不適当だという趣旨の一節があります。美しさを物差しにしない点で、三つの場は一致しています。

木で彫り直された、量産の椅子

最高裁の法廷意見が対象にしたのは、量産される実用品です。補足意見は、一品ずつつくられる実用の工芸品を美術工芸品の典型として挙げています。数の少ないコレクティブルデザインは、量産品の議論とは少し違う場所にあることになります。

その違いを鮮やかに見せるのが、オランダのデザイナー、マールテン・バースの《Plastic Chair in Wood》です。誰もが知る一体成形のプラスチック椅子を、上海の職人たちが木で手彫りしました。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館は、この椅子を、原型にあたる量産の椅子とともに収蔵しています。

形はすべて量産品のままです。形の中に作者の表現を探しても見つかりません。表現があるとすれば、安価な椅子を手で彫り直したという行為の側です。税関が蛍光灯の前で下した判断と、どこか似ています。

座るか、座らないか

結局のところ、線は作品の輪郭の上にはありません。水の中にあるかぎり、誰もあの椅子には座れない。美術館のベンチは、座られることで展示室の風景になる。彫刻的な家具を家に迎えた人は、毎日この判断をすることになります。傷を恐れて眺めるのか、形を体で覚えるのか。その家の中でだけ通用する線を、持ち主は椅子に近づくたびに引き直しています。

Photo credits & licenses
  1. Tom Strala, “Concrete installation by Tom Strala at Istituto Svizzero Milan (2014)” (Wikimedia Commons), CC BY-SA 4.0 — 縮小して掲載
  2. Tokujin Yoshioka Inc., “20 cre MY” (Wikimedia Commons), CC BY-SA 4.0 — 縮小して掲載
  3. Tokujin Yoshioka Inc., “Water Block at Musée d'Orsay” (Wikimedia Commons), CC BY-SA 4.0 — 縮小して掲載

写真は各ライセンスの条件に従い、長辺を縮小して掲載しています(切り抜き・色調整なし)。表示のない写真は、パブリックドメインまたは CC0 です。

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